エンドレスター

第1章 レスターの仕事

ここは世界の果てにある場所『エンド』。

神様が作った場所です。

まっすぐな一本道が走り、高い丘があります。

その上に長い煙突のようなものが取りつけられた建物がありました。

エンドには、それだけしかありません。

そこに、レスターという名前のロボットが連れてこられました。

神様は、レスターに仕事を与えることにしたのです。

エンドには、たくさんの手紙が届きます。

色んな理由から、あて先に届かなかった手紙です。

差出人の想いが伝えられなかった手紙達が、めぐりめぐって、この最果ての場所に届くのです。

エンドでは、この手紙を原料に星を作ります。

そして手紙が届くはずだった人の元へ、流れ星として打ち上げます。

エンドは、流れ星の製造工場なのです。

煙突のようなものは、手紙に託された想いを流れ星として打ち出す砲台なのです。

「レスターや。これを見なさい」

神様は立派なヒゲをなでながら言いました。

レスターはたくさんの手紙を見ました。

「エンドではこの手紙の『想い』を材料にして、流れ星を作るのじゃ」

レスターの顔は黒い金魚鉢のような形をしています。

その奥に浮かぶ目が光りました。

「どれ、一緒にやってみようじゃないか」

神様は、流れ星製造機の方に向かいます。

「まずはここに手紙を入れるのじゃ」

神様は杖を軽く降りました。

すると、手紙の入った箱が宙に浮かび上がります。

神様の魔法です。

ドドドドドッ

機械の上部で箱がひっくり返り、中に手紙が入っていきます。

「さぁ準備ができたぞい。こっちへ来なさい」

ベルトコンベアーの上に四角い石のようなものが並び、進んできます。

「この材料に、機械で手紙の想いを注ぐのじゃ」

機械が下りてきて、スタンプのように材料へかぶさります。

ペッタン

手紙はスイカくらいの丸い玉に変わっていました。

一個一個、ていねいに想いを注いでいきます。

ペッタン、ペッタン、ペッタンコ

レスターは光る目をパチクリさせています。

「よぅし、次からは腕の見せどころじゃぞ」

神様は嬉しそうでした。

丸い玉が流れていき、大きなお風呂のような場所にたまっていきます。

神様が杖を振ると、星の形をしたトンカチが現れました。

「こいつで材料を叩いて、星にするのじゃ」

丸い玉がひとつ移動してきて、目の前で止まります。

トンカチが丸い玉に振り下ろされました。

ズドーン!

丸い玉はきれいな星の形になっていました。

レスターは拍手をしました。

神様はまた嬉しそうにしました。

「ほら、やってごらんなさい」

レスターは神様からトンカチを受け取りました。

大きく振りかぶって、レスターはトンカチを力いっぱいたたきつけました。

ズドーン!

「ぶげれぼっ!」

神様の叫び声がひびきわたります。

その顔は星の形になっていました。

レスターは神様に向けてトンカチを振り下ろしたのです。

「これレスター!ワシじゃない!こっち!こーっち!材料を叩くのじゃ!見てなかったんか!?」

神様はちょっと泣いています。

レスターはペコペコと頭を下げました。

神様はまったくもうと言いながら、魔法で顔を元の形に戻しました。

ズドーン!ズドーン!

一度の失敗をしたレスターは、すぐにコツをつかみました。

レスターはどんどん流れ星を作っていきます。

「よし、仕上げはこっちじゃぞ」

神様はまだ怖がっていて、少しはなれたところからレスターを呼びました。

夜空の映ったモニターに囲まれた場所です。

「ここで、あて名の者の夜空に流れ星を打ち出すのじゃ」

レスターはイスに座り、目の前のスイッチを押しました。

ガチャコンッ

一つの流れ星が砲台の下に入ります。

ボシュッ!

美しい音を立てて、流れ星が打ち上げられました。

モニターを見ると、今打ち上げた流れ星が、無事にあて名の人の夜空に届いてるのが見えます。

キラーン☆

レスターは両手を上げて喜びの踊りをしました。

次々に、流れ星を打ち出していきます。

神様は、まじめに働くレスターの姿を見て安心しました。

流れ星製造工場の仕事を任せ、神様は帰りました。

レスターは一生懸命に働きました。

来る日も来る日も、届かなかった手紙に託された想いを、あて名の人の夜空に向けて、流れ星に変えて打ち上げました。

第2章 一通の手紙

ある日のことです。

夜に向けてレスターが仕事の準備をしていると、一通の手紙が落ちていました。

それはぺシェという小さな女の子へあてられた手紙でした。

レスターは手紙を読み込みました。

いつも怒ってばかりでごめん。

いつもダメダメと言ってごめん。

おとうさんは、おまえがケガをしないか心配で、いつも大きな声を出してしまう。

仕事で忙しいと、帰ってきても、休みの日でも、ついイライラしてしまう。

おまえと、おかあさんの幸せのために仕事をしているのに、そのおまえたちに優しくできないなんて、おとうさんは大切なことを忘れていた。

今、家から遠くはなれたところで仕事をしてる。

仕事の仲間はたくさんいるけど、さびしい気持ちが消えない。

おまえと、おかあさんと、一緒にいられることがどれだけ幸せなことだったのかを感じてる。

これからは、優しい父親になれるように努力する。

約束するよ。

ただ、それでも、怒ってしまうことも、イライラしてしまうこともあると思う。

もしおとうさんがそうなった時は、100回に1回くらいでいいから、この手紙に書いたことを思い出してほしい。

おとうさんが、優しい父親にあこがれていることを。

最近はよく夜空を見てる。

流れ星がないか、探してるんだ。

もし見えたら、そのまま、流れ星がおまえの元にいってくれるように、お願いしておくよ。


今、おまえの喜ぶことが何もできなくて、つらい。

次に帰ったら、いっぱい遊ぼう。

ご飯を一緒に食べよう。

デザートにおかあさんの作ったケーキを食べよう。

おまえの好きなテレビを見よう。

たくさんのおもちゃとお風呂に入ろう。

散歩に行って、公園に行こう。

夜は好きなだけ話そう。

朝になったってかまわないから。


眠くなったら眠ればいい。

おかあさんの言うことを、よく聞くんだよ。

手紙の最後の方は、字が乱れていました。

差出人は慌てて便せんを閉じたようでした。

レスターは、流れ星製造機のパワーをオンにしました。

ウィーーーーーーーーーーーーーーン

うなりを上げて工場が動き出します。

レスターは、その手紙を流れ星に変えることにしました。

第3章 ぺシェの夕焼け

ぺシェはお家の外で、夕焼けを見ていました。

ポストを見て、ため息をつきます。

最近は毎日、手紙が来てないことにガッカリしていました。

オレンジと紫が混ざっている道の向こうから、自転車に乗った郵便屋さんが大急ぎでやってきました。

ぺシェは、今度こそ父親から手紙が来たと思いました。

郵便屋さんは自転車を放り投げて、走ってきます。

ぺシェも、満面の笑みで走りました。

郵便屋さんは悲しそうな顔をして、ぺシェに母親を呼ぶように言いました。

母親が出てくると、郵便屋さんはいっそう、つらそうな顔をしました。

ぺシェは庭で遊ぶように言われました。

倒れた自転車の車輪が、カラカラと回っています。

離れていて、二人の声は聞こえません。

母親が崩れるようにヒザをつきました。

郵便屋さんが支えます。

母親は泣きました。

焼け焦げて壊れた飛行機が、砂浜に上がったという知らせだったのです。

それは、ぺシェの父親たちが乗っていた飛行機でした。

レスター

レスターは手紙を機械に入れ、スイッチを入れます。

いつも通りのていねいな手順で進めます。

トンカチを振り下ろし、流れ星ができました。

発射の準備のため、夜空のモニターを映します。

コンピューターを操作して、ぺシェの夜空に合わせました。

ぺシェの街が映っています。

街では、臨時の集会が開かれていました。

ぺシェの夜空

国で一番の偉い人がやってきて、テレビで集会が放送されていました。

ついに戦争が最終局面を迎えると、国の偉い人は言いました。

ぺシェの父親が乗っている飛行機の墜落が、きっかけになってしまったのです。

街中の、国中の人が、東の国を倒せ!と叫んでいます。

ぺシェの母親をはじめ、戦争を望まない人もたくさんいます。

国の偉い人も、どうにか東の国と和解できる道を探していました。

飛行機は、平和を結ぶ条約のために出発したのでした。

おそらく飛行機は攻撃されて墜落し、砂浜に上がったのだと大臣たちが言いました。

国の偉い人は覚悟を決めたのです。

ぺシェは集会をこっそり抜け出して、家のベランダから夜空を見上げていました。

レスター

レスターはスイッチを押します。

流れ星が打ち上げられました。

モニターを見ると、ぺシェの夜空に流れ星が走っていくのが見えます。

ぺシェの父親の想いを、ぺシェの夜空に届けることができました。

ぺシェの流れ星

ぺシェが夜空を見ていると、キラリと何かが光りました。

流れ星です。

ぺシェは驚きました。

一瞬の出来事でしたが、はっきりと見えました。

「おとうさんが、笑ってる…」

ぺシェは急いで、願い事をしました。

『流れ星が消える前に願いを三回唱えると願いが叶う』

そう友達が教えてくれていました。

流れ星はもう消えていましたが、ぺシェは目を閉じて願いました。

「流れ星さん、どうか、そのまま、おとうさんの元に帰ってください」

ぺシェは何度も何度も、お願いしました。

どこかで、一つの星が返事をするようにキラリと輝きました。

レスターの驚き

レスターはモニターをじっと見つめていました。

突然、大きな音が鳴りました。

工場の中に、輝く星が飛びこんできたのです。

その光は眩しく、レスターを照らしました。

強い熱を放っています。

その流れ星は、レスターの作った流れ星の原料を押しのけます。

ドン♪ デン♪ デロリロリン♪

星同士がぶつかって綺麗な音階を鳴らし、ベルトコンベアーを進んでいきます。

ついには砲台の発射位置まで進みました。

レスターは驚きました。

何も操作してないのに、勝手に発射されてしまったのです。

打ち上げられたモニターを確認します。

流れ星は海の沖の方へ、その身を輝かせながら走っていきます。

流れ星の往復

ぺシェは目を開けました。

その瞳には、星がいっそうきれいに映りました。

集会では、大人たちが破裂しそうな怒りを込めて叫んでいます。

ぺシェは夜空を見上げます。

「あ!」

また流れ星が光ったのです。

ぺシェは、すぐに父親の元に流れ星が届くように願いました。

すると、またまた流れ星が光りました。

ぺシェは願います。

流れ星が光ります。

それを繰り返して、ぺシェは気づきました。

願いを込めながら、走ります。

「おとうさんは生きてる!」

レスター

レスターは大慌てでした。

流れ星が、打ち出されては戻ってきて、また打ち出されます。

こんなことはエンドができて以来、はじめてのことでした。

流れ星の行先をモニターで見ていてレスターは、気づきました。

願い事が、めぐり続けているのだと。

ぺシェ

ぺシェは走って、友達の元にいきました。

友達の父親も、ぺシェの父親と同じ仕事で飛行機に乗っていました。

流れ星が父親たちの元に届くように願うと、流れ星が帰ってくることを伝えます。

ぺシェと一緒に、友達も願いを込めました。

今度は、二つの流れ星が流れました。

二人は顔を見合わせ、うなずきます。

集会のやっている広場に向けて走りました。

大人たちの間を抜けていきます。

ステージに上がっている、飛行機の乗組員の家族たち20人の元に駆け寄ります。

国の偉い人も、集まっていた大人たちも、テレビを放送している人たちも、怒りました。

ぺシェと友達は流れ星の話をしました。

みんな、信じられないという顔をしましたが、夜空には2つの流れ星が何度も光っています。

それは道しるべのような光でした。

大きな大きな戦争が、始まってしまうのです。

もう他に頼れるものがありません。

テレビ局の男が、カメラを夜空に向けます。

家族たちは、願いを込めました。

すると、夜空に、22個の流れ星が光ったのです。

広場にざわめきが広がりました。

それは、先ほどの怒りと恐怖に満ちた声ではありませんでした。

希望の声です。

ぺシェと友達と、家族たちは願います。

父親たちの元に、流れ星が届くことを。

夜空は、22個の流れ星を何度も走らせます。

その場にいたすべての人たちが、偶然ではないと分りはじめました。

ぺシェは、国の偉い人が使ってたマイクをうばい取り、言いました。

「おとうさんじゃなくてもいいから、みんな、好きな人のところに流れ星が届くように願ってみて!」

その言葉は広場にいた街の人にも、テレビを見ている国中の人にも、中継をされている世界中の人にも、届きました。

しんと、静まりました。

夜空も黙ってしまいました。

22個の流れ星も消えてしまいました。

みんなが不安になりました。

そのせつなでした。

数えきれない星が、夜空をかけめぐったのです。

まるで光の雨でした。

そのまぶしさに、みんな目を細めています。

それは笑ってるような顔でした。

世界中の人達が、好きな人の笑顔を想い浮かべたのです。

世界中の願いが反響し続けて、無数の流れ星が走っているのです。

それは今まで誰も見たことがない、美しい光景でした。

みんなが輝く流れ星の軌跡に見惚れていると、海の方から郵便屋さんが走ってきました。

国の偉い人に向かって、何かを叫んでいます。

郵便屋さんも、涙を浮かべた笑顔でした。

みんなが、海に向かって走り出します。

砂浜が見えてきました。

光の雨に照らされた暗い海の沖から、何かが近づいてきます。

それは、墜落した飛行機の片側の羽でした。

修理されて、イカダになっています。

街の人たちは驚き、歓声を上げました。

イカダには、飛行機に乗っていた22人の男たちが乗っていたのです。

街の人たちに気がついて、手を振っています。

よく見ると、イカダの中に一人だけ色の違う服を着ている人がいました。

東の国の服装でした。

街の人はまた驚きました。

なぜなら東の国の男も、飛行機の乗組員と肩を組んで笑顔で手を振っていたからです。

イカダに乗ってる男たちは、みんなで大きな紙を広げました。

そこには、戦争の終わりを告げる言葉が書かれていました。

エンドのレスター

エンドの流れ星製造工場の中は、慌ただしく動いています。

流れ星が永遠に回っています。

レスターは、もう流れ星を作る必要がなくなりました。

「流れ星が誰かの元に届くように込められた願い」が、流れ星を生み出し続けているからです。

世界中の夜空モニターを確認します。

今夜も、夜空には数えきれないほどの流れ星が光っています。

今夜も、人々は誰かの元に流れ星が届くように願いを込めています。

こうしてこの世界は、夜空に無限の流れ星が走り続ける世界になったのでした。





おしまい